抱する。一団の火焔《かえん》が二人を裹《つつ》んでしまう。
 己はこういう時間の非常に長いのを感じた。その時間は苦痛の時間である。そして或る瞬間に、今あからさまに覚える苦痛を、この奥さんを知ってからは、意識の下で絶間なく、微《かすか》に覚えているのであったという発見が、稲妻のように、地獄の焔《ほのお》と烟《けむり》とに巻かれている、己の意識を掠《かす》めて過ぎた。
 この間《あいだ》に苦痛は次第に奥さんを敵として見させるようになった。時間が延びて行《ゆ》くに連れて、この感じが段々長じて来た。若《も》し己が強烈な意志を持っていたならば、この時席を蹴《け》て起《た》って帰っただろう。そして奥さんの白い滑かな頬を批《う》たずに帰ったのを遺憾としただろう。
 突然なんの著明な動機もなく、なんの過渡《かと》もなしに。(この下日記の紙一枚引き裂きあり)
 その時己は奥さんの目の中《うち》の微笑が、凱歌《がいか》を奏するような笑《わらい》に変じているのを見た。そして一たび断《た》えた無意味な、余所々々《よそよそ》しい対話が又続けられた。奥さんを敵とする己の感じは愈々《いよいよ》強まった。奥さんは云っ
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