うた、根岸の家の一間で、電燈は軟《やわらか》い明りを湛《たた》え、火鉢の火が被った白い灰の下から、羅《うすぎぬ》を漏る肌の光のように、優しい温《あたた》まりを送る時、奥さんと己とは、汽車の座席やホテルの食卓を偶然共にした旅人と旅人とが語り交すような対話をしている。万人に公開しても好《い》いような対話である。初度の会見の折の出来事を閲《けみ》して来た己が、決して予期していなかった対話である。
 それと同時に奥さんはその口にする詞の一語一語を目の詞で打消して、「あなたとわたくしとの間では、そんな事はどうでも好うございまさあねえ」とでもいうように、ironiquement《イロニックマン》に打消して全く別様な話をしている。Une persuasion puissante et chaleureuse《ユヌ ペルシュアジョン ピュイッサント エエ シャリヨナリヨオズ》である。そして己の目は無慙《むざん》に、抗抵なくこの話に引き入れられて、同じ詞を語る。
 席と席とは二三尺を隔てて、己の手を翳《かざ》しているのと、奥さんに閑却せられているのと、二つの火鉢が中に置いてある。そして目は吸引し、霊は回
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