縮緬だろう。明るい褐色に、細かい黒い格子があった。帯は銀色に鈍く光る、粗い唐草のような摸様《もよう》であった。薄桃色の帯揚げが、際立って艶《えん》に若々しく見えた。
 己は良心の軽い呵責《かしゃく》を受けながら、とうとう読んで見ずにしまったラシイヌの一巻を返した。奥さんは見遣りもせず手にも取らずに、「お帰りの時、どれでも外のをお持ちなさいまし」と云った。
 前からあったのと同じ桐の火鉢が出る。茶が出る。菓子が出る。しづえは静かに這入って静かに立って行《ゆ》く。一間のうちはしんとしていて、話が絶えると、衝く息の音が聞える程である。二重に鎖《とざ》された戸の外には風の音もしないので、汽車が汽笛を鳴らして過ぎる時だけ、実世間の消息が通うように思われるのである。
 奥さんは己の返した一つの火鉢を顧みないで、指の尖《さき》の驚くべく細い、透き徹るような左の手を、退紅色摸様の炬燵布団の上に載せて、稍《やや》神経質らしく指を拡げたりすぼめたりしながら、目を大きく※[#「※」は「目+爭」、第3水準1−88−85、122−7]《みは》って己の顔をじっと見て、「お烟草《たばこ》を上がりませんの」だの、「こ
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