の頃あなた何をしていらっしって」だのというような、無意味な問を発する。己も勉めて無意味な返事をする。己は何か言いながら、覚えず奥さんの顔とお雪さんの顔とを較べて見た。
まあ、なんという違いようだろう。お雪さんの、血の急流が毛細管の中を奔《はし》っているような、ふっくりしてすべっこくない顔には、刹那も表情の変化の絶える隙《ひま》がない。埒《らち》もない対話をしているのに、一一《いちいち》の詞《ことば》に応じて、一一の表情筋の顫動《せんどう》が現れる。Naif《ナイイフ》な小曲にsensible《サンシイブル》な伴奏がある。
それに較べて見ると、青み掛かって白い、希臘《ギリシャ》風に正しいとでも云いたいような奥さんの顔は、殆どmasque《マスク》である。仮面である。表情の影を強いて尋ねる触角は尋ね尋ねて、いつでも大きい濃い褐色の瞳《ひとみ》に達してそこに止まる。この奥にばかり何物かがある。これがあるので、奥さんの顔には今にも雷雨が来《こ》ようかという夏の空の、電気に飽いた重くるしさがある。鷙鳥《しちょう》や猛獣の物をねらう目だと云いたいが、そんなに獰猛《どうもう》なのではない。Nym
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