十三

 純一が日記は又白い処ばかり多くなった。いつの間にか十二月も半ばを過ぎている。珍らしい晴天続きで、国で噂《うわさ》に聞いたような、東京の寒さをまだ感じたことがない。
 植長の庭の菊も切られてしまって、久しく咲いていた山茶花《さざんか》までが散り尽した。もう色のあるものと云っては、常磐樹《ときわぎ》に交って、梅もどきやなんぞのような、赤い実のなっている木が、あちこちに残っているばかりである。
 中沢のお雪さんが余り久しく見えないと思いながら、問いもせずにいると、或る日婆あさんがこんな事を話した。お雪さんに小さい妹がある。それがジフテリイになって大学の病院に這入った。ジフテリイは血清注射で直ったが、跡が腎臓炎になって、なかなか退院することが出来ない。お雪さんは稽古《けいこ》に行った帰りに、毎日見舞に行って、遅くなって帰る。休日には朝早くからおもちゃなんぞを買って行って、終日附いているということである。「ほんとにあんな気立ての好《い》い子ってありません」と婆あさんが褒めて話した。
 この頃純一は久し振りで一度大石路花を尋ねた。下宿が小石川の富坂上《とみざかうえ》に変っていた。
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