「僕なんぞはそういう問題では、非常に楽天的に考えていますよ。どんなに手広に新聞雑誌を利用しているclique《クリク》でも、有力な分子はいつの間にか自立してしまうから、党派そのものは脱殻《ぬけがら》になってしまって、自滅せずにはいられないのです。だからそんなものに、縋《すが》ったって頼もしくはないし、そんなものに黙殺せられたって、悪く言われたって阻喪するには及ばない。無論そんな仲間に這入るなんという必要はないのです」
「しかし相談相手になって貰われる先輩というようなものは欲しいと思うのですが」
「そりゃああっても好《い》いでしょうが、縁のある人が出合うのだから、強いて求めるわけには行《い》かない。紹介状やなんぞで、役に立つ交際が成り立つことは先ず無いからね」
こんな話をしているうちに、三味線や歌が聞え已《や》んだので、純一は時計を見た。
「もう五時を大分過ぎています」
「道理で少し寒くなって来た」と云って、大村が立った。
鴉が一声啼いて森の方へ飛んで行った。その行方を見送れば、いつの間にか鼠色の薄い雲が空を掩《おお》うていた。
二人は暫く落葉の道を歩いて上りの汽車に乗った。
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