始終主格のない話ばかりなのである。
 大村が黙っているので、純一も遠慮して黙っている。詠子さんはやはり端然としている。
 窓の外は同じような田圃道《たんぼみち》ばかりで、おりおりそこに客を載せてゆっくり歩いている人力車なんぞが見える。刈跡から群がって雀が立つ。醜い人物をかいた広告の一つに、鴉《からす》の止まっていたのが、嘴《くちばし》を大きく開《あ》いて啼《な》きながら立つ。
 室内は、左の窓から日の差し込んでいる処に、小さい塵《ちり》が跳《おど》っている。
 黒人《くろうと》らしい女連も黙ってしまう。なぜだか大村が物を言わないので、純一も退屈には思いながら黙っていた。
 王子を過ぎるとき、窓から外を見ていた純一が、「ここが王子ですね」と云うと、大村は「この列車は留まらないのだよ」と云ったきり、又黙ってしまった。
 赤羽で駅員が一人這入って来て、卓《テエブル》の上に備えてある煎茶の湯に障《さわ》って見て、出て行った。ここでも、蕨《わらび》や浦和でも、多少の乗客の出入《でいり》はあったが、純一等のいる沈黙の一等室には人の増減がなかった。詠子さんは始終端然としているのである。
 三時過ぎに
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