た頃に、詠子さんが同じ室《しつ》に這入って来た。さっきの洋服の男は、三等にでも乗るのであろう。挨拶をして走って行った。女学生らしい四五人がずらりと窓の外に立ち並んだ。詠子さんは開《ひら》いていた窓から、年寄の女に何か言った。
発車の笛が鳴った。「御機嫌|宜《よろ》しゅう」、「さようなら」なんぞという詞が、愛相《あいそう》の好《よ》い女学生達の口から、囀《さえず》るように出た。詠子さんは窓の内に真っ直に立って、頤《あご》で会釈をしている。女学生の中《うち》の年上で、痩《や》せた顔の表情のひどく活溌《かっぱつ》なのが、汽車の大分遠ざかるまで、ハンケチを振って見送っていた。
詠子さんは静かに膝掛の上に腰を卸して、マッフに両手を入れて、端然としている。
暫《しばら》くは誰《だれ》も物を言わない。日暮里《にっぽり》の停車|場《ば》を過ぎた頃、始めて物を言い出したのは、黒《くろ》うとらしい女連《おんなづれ》であった。「往《い》くと思っているでしょうか」と若いのが云うと、「思っていなくってさ」と年を取ったのが云う。思いの外に遠慮深い小声である。しかし静かなこの室では一句も残らずに聞える。それが
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