したが、君は気が附きませんでしたか」
「気が附かなくて。あれは、君、有名な高畠詠子《たかばたけえいこ》さんだよ」
「そうですか」と云った純一は、心の中《うち》になる程と頷《うなず》いた。東京の女学校長で、あらゆる毀誉褒貶《きよほうへん》を一身に集めたことのある人である。校長を退《しりぞ》いた理由としても、種々の風説が伝えられた。国にいたとき、田中先生の話に、詠子さんは演説が上手で、或る目的を以て生徒の群に対して演説するとなると、ナポレオンが士卒を鼓舞するときの雄弁の面影があると云った。悪徳新聞のあらゆる攻撃を受けていながら、告別の演説でも、全校の生徒を泣かせたそうである。それも一時《いちじ》の感動ばかりではない。級《クラス》ごとに記念品を贈る委員なぞが出来たとき、殆ど一人《いちにん》もその募りに応ぜなかったものはないということである。とにかく英雄である。絶えず自己の感情を自己の意志の下《もと》に支配している人物であろうと、純一は想像した。
「女丈夫だとは聞いていましたが、一寸見てもあれ程態度の目立つ人だとは思わなかったのです」
「うん。態度のrepresentative[# 二つ目の「
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