片隅で、煙草を買っている間に、純一は一等待合に這入って見た。
 ここで或る珍らしい光景が純一の目に映じた。
 中央に据えてある卓《テエブル》の傍《わき》に、一人の夫人が立っている。年はもう五十を余程越しているが、純一の目には四十位にしか見えない。地味ではあるが、身の廻りは立派にしているように思われた。小さく巻いた束髪に、目立つような髪飾もしていないが、鼠色《ねずみいろ》の毛皮の領巻《えりまき》をして、同じ毛皮のマッフを持っている。そして五六人の男女に取り巻かれているが、その姿勢や態度が目を駭《おどろ》かすのである。
 先《ま》ず女王がcercle《セルクル》をしているとしか思われない。留守を頼んで置く老女に用事を言い附ける。随行らしい三十歳ばかりの洋服の男に指図をする。送って来たらしい女学生風の少女に一人一人訓戒めいた詞を掛ける。切口状《きりこうじょう》めいた詞が、血の色の極淡い脣《くちびる》から凛《りん》として出る。洗錬を極めた文章のような言語に一句の無駄がない。それを語尾一つ曖昧《あいまい》にせずに、はっきり言う。純一は国にいたとき、九州の大演習を見に連れて行《ゆ》かれて、師団長が
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