産の葡萄酒を出させて自分と倅との杯に注ぐ。二|人《にん》は利酒《きゝざけ》の上手らしく首を掉つて味つて見る。
「リイケや。もう二年立つて此祭が来ると、あそこの烟突の附根の下に小さい木沓があるのだ。」かう云つたのはトビアスである。
「さうなると愉快だらうなあ」と、ドルフが云つた。
 リイケの目の中には涙が光つてゐる。其目でドルフの顔を見てささやいた。「ほんとにあなたは好い人ねえ。」
 ドルフはリイケの傍へ摩《す》り寄つて、臂をリイケの腋に廻した。「なに、己は好い人でも悪い人でも無い。只お前を心から可哀く思つてゐる丈さ。」
 リイケも臂をドルフの腋に絡んだ。「わたし、本当にこれまで出逢つた事を考へて見ると、どうして生きてゐられるのだらうと、さう思ふの。」
「過ぎ去つた事は過ぎ去つたのだ」と、ドルフは慰めた。
「でも折々はわたし早く天に往つて、聖母様にあなたのわたしにして下すつた事を申し上げた方が好いかと思ふの。」
「おい。お前が陰気になると、己も陰気になつてしまふ。今夜のやうな晩には、御免だぜ。」
「あら。わたしちよいとでもあなたのお心持を悪くしたくはないわ。そんな事をする程なら、わたしの
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