り紅白|縮緬《ちりめん》の天幕、杵勝名取《きねかつなとり》男女中より縹色絹《はないろぎぬ》の後幕、勝久門下名取女|中《じゅう》より中形《ちゅうがた》縮緬の大額《おおがく》、親密連《しんみつれん》女名取より茶緞子《ちゃどんす》丸帯の掛地《かけじ》、木場贔屓《きばひいき》中より白縮緬の水引が贈られた。役者はおもいおもいの意匠を凝《こら》したびらを寄せた。縁故のある華族の諸家《しょけ》は皆金品を遺《おく》って、中には老女を遣《つかわ》したものもあった。勝久が三十一歳の時の事である。
その百十六
勝久が本所松井町福島某の地所に、今の居宅を構えた時に、師匠勝三郎は喜んで、歌を詠じて自ら書し、表装して貽《おく》った。勝久はこの歌に本づいて歌曲「松《まつ》の栄《さかえ》」を作り、両国|井生村楼《いぶむらろう》で新曲開きをした。勝三郎を始として、杵屋一派の名流が集まった。曲は奉書摺《ほうしょずり》の本に為立《した》てて客《かく》に頒《わか》たれた。緒余《しょよ》に『四つの海』を著した抽斎が好尚の一面は、図らずもその女《じょ》陸《くが》に藉《よ》って此《かく》の如き発展を遂げたのである。これ
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