|安《やす》の夫宗右衛門も、聖堂に学んだ男である。もし五百が尋常の商人を夫としたら、五百の意志は山内氏にも長尾氏にも軽《かろ》んぜられるであろう。これに反して五百が抽斎の妻となると栄次郎も宗右衛門も五百の前に項《うなじ》を屈せなくてはならない。五百は里方のために謀《はか》って、労少くして功多きことを得るであろう。かつ兄の当然持っておるべき身代《しんだい》を、妹として譲り受けるということは望ましい事ではない。そうして置いては、兄の隠居が何事をしようと、これに喙《くちばし》を容《い》れることが出来ぬであろう。永久に兄を徳として、その為《な》すがままに任せていなくてはなるまい。五百は此《かく》の如き地位に身を置くことを欲せぬのである。五百は潔くこの家を去って渋江氏に適《ゆ》き、しかもその渋江氏の力を藉《か》りて、この家の上に監督を加えようとするのである。
 貞白は直《すぐ》に抽斎を訪《と》うて五百の願《ねがい》を告げ、自分も詞《ことば》を添えて抽斎を説き動《うごか》した。五百の婚嫁は此《かく》の如くにして成就したのである。

   その百八

 保はこの年六月に『横浜毎日新聞』の編輯員《へん
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