附いて、急に起《た》って傍《かたわら》に往き顔を覗《のぞ》いた。
五百の目は直視し、口角《こうかく》からは涎《よだれ》が流れていた。
保は「おっ母様、おっ母様」と呼んだ。
五百は「ああ」と一声答えたが、人事を省《せい》せざるものの如くであった。
保は床を敷いて母を寝させ、自ら医師の許《もと》へ走った。
その百六
渋江氏の住んでいた烏森の家からは、存生堂《ぞんせいどう》という松山|棟庵《とうあん》の出張所が最も近かった。出張所には片倉《かたくら》某という医師が住んでいた。保は存生堂に駆け附けて、片倉を連れて家に帰った。存生堂からは松山の出張をも請いに遣った。
片倉が一応の手当をした所へ、松山が来た。松山は一診していった。「これは脳卒中で右半身不随《ゆうはんしんふずい》になっています。出血の部位が重要部で、その血量も多いから、回復の望《のぞみ》はありません」といった。
しかし保はその言《こと》を信じたくなかった。一時|空《くう》を視《み》ていた母が今は人の面《おもて》に注目する。人が去れば目送する。枕辺《ちんぺん》に置いてあるハンカチイフを左手《さしゅ》に把《と》っ
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