旨《うま》そうな茶飯餡掛《ちゃめしあんかけ》を食べさせる店が出来ていました。そこに腰を掛けて、茶飯を二杯、餡掛を二杯食べました。どっちも五十文ずつで、丁度二百文でした。廉《やす》いじゃありませんか」と、優はいった。女主人が気さくだと称するのは、この調子を斥《さ》して言ったのである。

   その九十六

 この年には弘前から東京に出て来るものが多かった。比良野|貞固《さだかた》もその一人《ひとり》で、或日突然|保《たもつ》が横網町の下宿に来て、「今|著《つ》いた」といった。貞固は妻|照《てる》と六歳になる女《むすめ》柳《りゅう》とを連れて来て、百本|杙《ぐい》の側に繋《つな》がせた舟の中に遺《のこ》して置いて、独り上陸したのである。さて差当り保と同居するつもりだといった。
 保は即座に承引して、「御遠慮なく奥さんやお嬢さんをお連《つれ》下さい、追附《おっつけ》母も弘前から参るはずになっていますから」といった。しかし保は窃《ひそか》に心を苦《くるし》めた。なぜというに、保は鈴木の女主人《おんなあるじ》に月二両の下宿代を払う約束をしていながら、学資の方が足らぬがちなので、まだ一度も払わずに
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