《のち》を襲《つ》いだのが尾崎愕堂《おざきがくどう》さんだそうである。
 この頃矢島優は暇を得るごとに、浦和から母の安否を問いに出て来た。そして土曜日には母を連れて浦和へ帰り、日曜日に車で送り還《かえ》した。土曜日に自身で来られぬときは、迎《むかえ》の車をおこすのであった。
 鈴木の女主人《おんなあるじ》は次第に優に親《したし》んで、立派な、気さくな檀那《だんな》だといって褒めた。当時の優は黒い鬚髯《しゅぜん》を蓄えていた。かつて黒田伯|清隆《きよたか》に謁した時、座に少女があって、良《やや》久しく優の顔を見ていたが、「あの小父《おじ》さんの顔は倒《さかさ》に附いています」といったそうである。鬢毛《びんもう》が薄くて髯《ひげ》が濃いので、少女は顋《あご》を頭と視《み》たのである。優はこの容貌で洋服を著《つ》け、時計の金鎖《きんぐさり》を胸前《きょうぜん》に垂れていた。女主人が立派だといったはずである。
 或土曜日に優が夕食頃に来たので、女主人が「浦和の檀那、御飯を差し上げましょうか」といった。
「いや。ありがたいがもう済まして来ましたよ。今浅草|見附《みつけ》の所を遣《や》って来ると、
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