ョンの強い性質を有していた。その陸に対する要望はこれがために頗る熱烈であった。渋江氏では、もしその請《こい》を納《い》れなかったら、あるいは両家の間に事端《じたん》を生じはすまいかと慮《おもんばか》った。陸が遂に文一郎に嫁したのは、この疑懼《ぎく》の犠牲になったようなものである。
 この結婚は、名義からいえば、陸が矢川氏に嫁したのであるが、形迹《けいせき》から見れば、文一郎が壻入をしたようであった。式を行《おこな》った翌日から、夫婦は終日渋江の家にいて、夜更《よふ》けて矢川の家へ寝に帰った。この時文一郎は新《あらた》に馬廻《うままわり》になった年で二十九歳、陸は二十三歳であった。
 矢島|優善《やすよし》は、陸が文一郎の妻《さい》になった翌月、即ち十月に、土手町に家を持って、周禎の許《もと》にいた鉄を迎え入れた。これは行懸《ゆきがか》りの上から当然の事で、五百は傍《はた》から世話を焼いたのである。しかし二十三歳になった鉄は、もう昔日の如く夫の甘言に賺《すか》されてはおらぬので、この土手町の住いは優善が身上《しんじょう》のクリジスを起す場所となった。
 優善と鉄との間に、夫婦の愛情の生ぜ
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