が問うと、女中はいった。「あれは札差《ふださし》の檀那衆《だんなしゅ》が悪作劇《いたずら》をしてお出《いで》なすったところへ、お辰《たつ》さんが飛び込んでお出なすったのでございます。蒔《ま》き散らしてあったお金をそのままにして置いて、檀那衆がお逃《にげ》なさると、お辰さんはそれを持ってお帰《かえり》なさいました」といった。お辰というのは、後《のち》盗《ぬすみ》をして捕えられた旗本|青木弥太郎《あおきやたろう》の妾《しょう》である。
女中の語り畢《おわ》る時、両刀を帯びた異様の男が五百らの座敷に闖入《ちんにゅう》して「手前《てまえ》たちも博奕《ばくち》の仲間だろう、金を持っているなら、そこへ出してしまえ」といいつつ、刀《とう》を抜いて威嚇した。
「なに、この騙《かた》り奴《め》が」と五百は叫んで、懐剣を抜いて起《た》った。男は初《はじめ》の勢にも似ず、身を翻《ひるがえ》して逃げ去った。この年五百はもう四十七歳になっていた。
その七十四
矢島|優善《やすよし》は山田の塾に入《い》って、塾頭に推されてから、やや自重するものの如く、病家にも信頼せられて、旗下《はたもと》の家庭にし
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