た。口には懐剣を銜《くわ》えていた。そして閾際《しきいぎわ》に身を屈《かが》めて、縁側に置いた小桶《こおけ》二つを両手に取り上げるところであった。小桶からは湯気《ゆげ》が立ち升《のぼ》っている。縁側《えんがわ》を戸口まで忍び寄って障子を開く時、持って来た小桶を下に置いたのであろう。
五百は小桶を持ったまま、つと一間《ひとま》に進み入って、夫を背にして立った。そして沸き返るあがり湯を盛った小桶を、右左の二人の客に投げ附け、銜えていた懐剣を把《と》って鞘《さや》を払った。そして床《とこ》の間《ま》を背にして立った一人の客を睨《にら》んで、「どろぼう」と一声叫んだ。
熱湯を浴びた二人《ふたり》が先に、※[#「木+覇」、第4水準2−15−85]《つか》に手を掛けた刀をも抜かずに、座敷から縁側へ、縁側から庭へ逃げた。跡の一人も続いて逃げた。
五百は仲間や諸生の名を呼んで、「どろぼう/\」という声をその間に挟んだ。しかし家に居合せた男らの馳《は》せ集るまでには、三人の客は皆逃げてしまった。この時の事は後々《のちのち》まで渋江の家の一つ話になっていたが、五百は人のその功を称するごとに、慙《は》
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