《うずたか》く積み上げてあった。抽斎がそこへ来掛かると、本箱が崩れ墜《お》ちた。抽斎はその間に介《はさ》まって動くことが出来なくなった。
五百《いお》は起きて夫の後《うしろ》に続こうとしたが、これはまだ講義室に足を投ぜぬうちに倒れた。
暫くして若党|仲間《ちゅうげん》が来て、夫妻を扶《たす》け出した。抽斎は衣服の腰から下が裂け破れたが、手は両刀を放たなかった。
抽斎は衣服を取り繕う暇《ひま》もなく、馳《は》せて隠居|信順《のぶゆき》を柳島の下屋敷に慰問し、次いで本所二つ目の上屋敷に往った。信順は柳島の第宅《ていたく》が破損したので、後に浜町《はまちょう》の中屋敷に移った。当主|順承《ゆきつぐ》は弘前にいて、上屋敷には家族のみが残っていたのである。
抽斎は留守居比良野|貞固《さだかた》に会って、救恤《きゅうじゅつ》の事を議した。貞固は君侯在国の故を以て、旨《むね》を承《う》くるに遑《いとま》あらず、直ちに廩米《りんまい》二万五千俵を発して、本所の窮民を賑《にぎわ》すことを令した。勘定奉行|平川半治《ひらかわはんじ》はこの議に与《あずか》らなかった。平川は後に藩士が悉《ことごと》く
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