量なきにかかわらず、町々の料理屋に出入《いでいり》し、またしばしば吉原に遊んだ。そして借財が出来ると、親戚《しんせき》故旧をして償《つぐの》わしめ、度重《たびかさな》って償う道が塞《ふさ》がると、跡を晦《くら》ましてしまう。抽斎が優善のために座敷牢を作らせたのは、そういう失踪《しっそう》の間の事で、その早晩|還《かえ》り来《きた》るを候《うかが》ってこの中《うち》に投ぜようとしたのである。
十月二日は地震の日である。空は陰《くも》って雨が降ったり歇《や》んだりしていた。抽斎はこの日観劇に往った。周茂叔連《しゅうもしゅくれん》にも逐次に人の交迭《こうてつ》があって、豊芥子《ほうかいし》や抽斎が今は最年長者として推されていたことであろう。抽斎は早く帰って、晩酌をして寝た。地震は亥《い》の刻に起った。今の午後十時である。二つの強い衝突を以て始まって、震動が漸《ようや》く勢《いきおい》を増した。寝間《ねま》にどてらを著《き》て臥《ふ》していた抽斎は、撥《は》ね起きて枕元《まくらもと》の両刀を把《と》った。そして表座敷へ出ようとした。
寝間と表座敷との途中に講義室があって、壁に沿うて本箱が堆
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