おったらこっちから往っても好《い》いというのである。手跡《しゅせき》はまだ少《わか》い人らしい。
わたくしは曠《むな》しく終吉さんの病《やまい》の癒《い》えるのを待たなくてはならぬことになった。探索はここに一頓挫《とんざ》を来《きた》さなくてはならない。わたくしはそれを遺憾に思って、この隙《ひま》に弘前から、歴史家として道純の事を知っていそうだと知らせて来た外崎覚《とのさきかく》という人を訪ねることにした。
外崎さんは官吏で、籍が諸陵寮《しょりょうりょう》にある。わたくしは宮内省へ往った。そして諸陵寮が宮城を離れた霞《かすみ》が関《せき》の三年坂上《さんねんざかうえ》にあることを教えられた。常に宮内省には往来《ゆきき》しても、諸陵寮がどこにあるということは知らなかったのである。
諸陵寮の小さい応接所《おうせつじょ》で、わたくしは初めて外崎さんに会った。飯田さんの先輩であったとは違って、この人はわたくしと齢《よわい》も相若《あいし》くという位で、しかも史学を以て仕えている人である。わたくしは傾蓋《けいがい》故《ふる》きが如き念《おもい》をした。
初対面の挨拶《あいさつ》が済んで、
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