、賢い小男達で、車輪のやうな目をして、大きい二重の腮を持つてゐる。上着は並の市民の着てゐるのより長い。沓の金物も市民のより太い。己がこの市に来て住むことになつてから、評議員達は二度特別会議を開いて、左の重大な決議をした。
 第一条。何事に依らず古来定まりたる事を変更すべからず。
 第二条。本市以外には一切取るに足る事なしと認む。
 第三条。市民は先祖伝来の時計及キヤベツを忘却すべからず。
 議事堂の会議室の上が塔になつてゐる。塔の中には市の創立以来大時計が据ゑ付けてある。これが市の誇りで、同時に市の奇蹟である。家の戸口に据わつてゐる爺いさんの睨んでゐるのはこの時計である。
 塔は七角に出来てゐる。大時計も矢張七角になつてゐる。どの面にも針があつて、どこからでも時が見られるやうにしてある。太い、黒い針が広い白い板の面の上にある。市の評議員達は塔の番人を一人雇つて、大時計の番をさせてゐる。番人はその外にはなんの用事もない。だから市には色々の名誉職があるが、大時計の番人程結構な役人はゐない。用事は時計の番をする丈で、しかもその時計は丸で手が掛からない。市の記録に残つてゐる程の時代をどこまで溯
前へ 次へ
全17ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング