壁に塗り籠めた大きい、丈の高い炉には時計とキヤベツとが彫つてある。炉の上の棚には、真ん中に本当の時計が一つ据ゑてあつて、それが断えず感心な好い音をさせてゐる。棚の両端には植木鉢が一つ宛置いてあつて、それにはキヤベツが生えてゐる。それからその時計と植木鉢との間には、きつと支那人の人形が一つ宛《づゝ》立つてゐる。ふくらんだ腹の真ん中に穴があつて、それを覗いて見ると、中には懐中時計の表面が見えてゐる。炉の火床は幅が広くて深い。それに恐ろしい五徳のやうな物が据ゑてある。そしてその上に壁に切り込んだ龕《がん》のやうな所から大きな鍋が吊り下げてあつて、中には一ぱい麦酒樽漬《ビイルだるづけ》にしたキヤベツと豚の肉とが入れてある。
鍋にはお神さんが気を附けてゐる。お神さんは頬の赤い、目の青いをばさんで、あのカンヂスと云ふ白砂糖の包紙のやうな円錐形の大帽子を被つてゐる。帽子からは紫と黄色とに染めた紐が下がつてゐる。着物は橙《だい/\》のやうに黄いろい色の毛織で、背後《うしろ》がふくらんで丈が詰まつてゐる。全体此着物はひどく短い。脚の中程までしか届かない。脚は円つこい。踝《くるぶし》も同断である。その脚
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