い菜園がある。そこに円い日時計が据ゑ附けてある。そして円いキヤベツが二十四本植ゑてある。家と家とは飽く迄似てゐて、何一つ相違してゐる点が無い。建築の様式は少し異様だが、併し画の様な面白みがある。堅く焼いた、小さい、赤い煉瓦の縁《へり》の黒いので建ててあるから、壁が丁度大きな象棋盤《しやうぎばん》のやうに見える。家の正面には搏風《はぶ》がある。屋根と表口の上とに、簷《のき》と庇とが出てゐるが、その広さが丁度家全体の広さ程ある。小さい、奥深い窓が細い格子で為切《しき》つてあつて、中には締め切つてあるのも見える。屋根に葺いてある瓦には長い、反《は》ね返《かへ》つた耳が出てゐる。家に使つてある材木は皆暗い色をしてゐて、それに一様な彫刻がしてある。それは古来スピイスブルクの彫刻師が、時計とキヤベツとの二つしか彫刻しないからである。併しその二つは上手に彫る。どこでも材木の面が明いてゐれば、すぐにそこへ彫り附ける。
 家は外面が似てゐる様に、内部も似てゐる。道具は皆同じ雛形に依つて拵へたものである。床は四角な煉瓦を敷き詰めてある。卓や椅子は黒ずんだ木で拵へて、捩《よぢ》れた脚の下の方が細くしてある。
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