には綺麗な草色の沓足袋《くつたび》を穿いてゐる。沓は桃色の鞣革《なめしがは》で、それが黄いろい紐で締めてある。その締めた結玉がキヤベツの形になつてゐる。お神さんは左の手に小さい、重みのある懐中時計を持つて、右の手には大きい杓子を持つてゐる。その杓子で鍋の中のキヤベツと豚の肉とを掻き廻すのである。お神さんの傍には斑《まだら》の猫の太つたのがゐる。その尻つぽには子供がいたづらに金めつきの懐中時計を括り付けたので、猫はそれを引き摩つてゐる。
 子供が今例にして話してゐる家には三人ゐる。それが三人とも前の菜園で豚の番をしてゐる。三人とも丈は二呎で頭に三角帽子を被つてゐる。赤いチヨツキが太股の辺まで垂れてゐる。ずぼんは膝切りで、ブツクスキンと云ふ毛織で拵へてある。沓足袋は赤い毛糸で編んである。重さうな沓には大きい銀の金物が付いてゐる。上着は長くて、それに大きい貝殻ぼたんが付けてある。皆煙管を口に銜へて、右の手には胴を円くふくらませた懐中時計を持つてゐる。口から煙を吹いては時計を見、時計を見ては煙を吹く。それをいつまでも繰り返してゐるのである。豚は皆ひどく太つてゐて、不精である。キヤベツの葉の枯れて落ちたのを拾つて食つてゐる。矢張猫と同じやうに尻つぽには懐中時計が括り付けてあるので、折々後足でそれを蹴ることがある。
 家の戸口の右の方には、倚り掛かりの高い腕附の椅子がある。鞣革で張つた椅子で、脚は卓《つくゑ》と同じやうに捩れて下の方が細くなつてゐる。その椅子に腰を掛けてゐるのが主人である。頬つぺたの非常にふくらんだ爺いさんで、目は真ん円で、大きい腮《あご》が二重《ふたへ》になつてゐる。着物は子供のと全く同じ事だから、改めて説明しなくても好からう。只爺いさんの子供と違ふ所は、口に銜へてゐる煙管が少し大きいから、口から煙を余計に吹き出すことが出来る丈である。爺いさんも矢張懐中時計を持つてゐるが、それを隠しに入れてゐる丈が違つてゐる。これは別に大切な用事があるので、時計ばかり見てはゐられないのである。その用事がなんだと云ふことは直ぐに説明するから、待つてゐて貰ひたい。爺いさんはぢつとして据わつて、左の膝の上に右の膝を載せてゐる。そして真面目な顔をして、少くも片々《かた/\》の目で虚空の或る一点を睨んでゐる。その一点は議事堂の塔の上である。
 議事堂には市の評議員達がゐる。皆円く太つた
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