う赤松の幹のような脚にすがった。「船頭さん。これはどうしたことでございます。あのお嬢さま、若さまに別れて、生きてどこへ往かれましょう。奥さまも同じことでございます。これから何をたよりにお暮らしなさいましょう。どうぞあの舟の往く方へ漕いで行って下さいまし。後生でございます」
「うるさい」と佐渡は後ろざまに蹴った。姥竹は舟※[#「竹かんむり/令」、第3水準1-89-59]《ふなとこ》に倒れた。髪は乱れて舷にかかった。
姥竹は身を起した。「ええ。これまでじゃ。奥さま、ご免下さいまし」こう言ってまっさかさまに海に飛び込んだ。
「こら」と言って船頭は臂《ひじ》を差し伸ばしたが、まにあわなかった。
母親は袿《うちぎ》を脱いで佐渡が前へ出した。「これは粗末な物でございますが、お世話になったお礼に差し上げます。わたくしはもうこれでお暇を申します」こう言って舷に手をかけた。
「たわけが」と、佐渡は髪をつかんで引き倒した。「うぬまで死なせてなるものか。大事な貨《しろもの》じゃ」
佐渡の二郎は牽※[#「糸+拔のつくり」、第3水準1-89-94]《つなで》を引き出して、母親をくるくる巻きにして転がした。
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