、山岡大夫の舟は見る見る遠ざかって行く。
母親は佐渡に言った。「同じ道を漕いで行って、同じ港に着くのでございましょうね」
佐渡と宮崎とは顔を見合わせて、声を立てて笑った。そして佐渡が言った。「乗る舟は弘誓《ぐぜい》の舟、着くは同じ彼岸《かのきし》と、蓮華峰寺《れんげぶじ》の和尚《おしょう》が言うたげな」
二人の船頭はそれきり黙って舟を出した。佐渡の二郎は北へ漕ぐ。宮崎の三郎は南へ漕ぐ。「あれあれ」と呼びかわす親子主従は、ただ遠ざかり行くばかりである。
母親は物狂おしげに舷《ふなばた》に手をかけて伸び上がった。「もうしかたがない。これが別れだよ。安寿《あんじゅ》は守本尊の地蔵様を大切におし。厨子王《ずしおう》はお父うさまの下さった護り刀を大切におし。どうぞ二人が離れぬように」安寿は姉娘、厨子王は弟の名である。
子供はただ「お母あさま、お母あさま」と呼ぶばかりである。
舟と舟とは次第に遠ざかる。後ろには餌《え》を待つ雛《ひな》のように、二人の子供があいた口が見えていて、もう声は聞えない。
姥竹は佐渡の二郎に「もし船頭さん、もしもし」と声をかけていたが、佐渡は構わぬので、とうと
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