》を入れる※[#「木+累」、第3水準1−86−7]子《かれいけ》が添えてある。新参小屋はほかの奴婢《ぬひ》の居所とは別になっているのである。
 奴頭が出て行くころには、もうあたりが暗くなった。この屋《いえ》には燈火《あかり》もない。

     ――――――――――――

 翌日の朝はひどく寒かった。ゆうべは小屋に備えてある衾《ふすま》があまりきたないので、厨子王が薦《こも》を探して来て、舟で苫《とま》をかずいたように、二人でかずいて寝たのである。
 きのう奴頭に教えられたように、厨子王は※[#「木+累」、第3水準1−86−7]子《かれいけ》を持って厨《くりや》へ餉《かれい》を受け取りに往った。屋根の上、地にちらばった藁の上には霜が降っている。厨は大きい土間で、もう大勢の奴婢《ぬひ》が来て待っている。男と女とは受け取る場所が違うのに、厨子王は姉のと自分のともらおうとするので、一度は叱られたが、あすからはめいめいがもらいに来ると誓って、ようよう※[#「木+累」、第3水準1−86−7]子《かれいけ》のほかに、面桶《めんつう》に入れた※[#「飮のへん+亶」、第3水準1−94−10]《かたかゆ》と、木の椀《まり》に入れた湯との二人前をも受け取った。※[#「飮のへん+亶」、第3水準1−94−10]は塩を入れて炊《かし》いである。
 姉と弟とは朝餉《あさげ》を食べながら、もうこうした身の上になっては、運命のもとに項《うなじ》を屈《かが》めるよりほかはないと、けなげにも相談した。そして姉は浜辺へ、弟は山路をさして行くのである。大夫が邸の三の木戸、二の木戸、一の木戸を一しょに出て、二人は霜を履《ふ》んで、見返りがちに左右へ別れた。
 厨子王が登る山は由良《ゆら》が嶽《たけ》の裾《すそ》で、石浦からは少し南へ行って登るのである。柴を苅る所は、麓《ふもと》から遠くはない。ところどころ紫色の岩の露《あら》われている所を通って、やや広い平地に出る。そこに雑木が茂っているのである。
 厨子王は雑木林の中に立ってあたりを見廻した。しかし柴はどうして苅るものかと、しばらくは手を着けかねて、朝日に霜の融《と》けかかる、茵《しとね》のような落ち葉の上に、ぼんやりすわって時を過した。ようよう気を取り直して、一枝二枝苅るうちに、厨子王は指を傷《いた》めた。そこでまた落ち葉の上にすわって、山でさえこんなに寒い、浜辺に行った姉さまは、さぞ潮風が寒かろうと、ひとり涙をこぼしていた。
 日がよほど昇ってから、柴を背負って麓へ降りる、ほかの樵《きこり》が通りかかって、「お前も大夫のところの奴か、柴は日に何荷苅るのか」と問うた。
「日に三荷苅るはずの柴を、まだ少しも苅りませぬ」と厨子王は正直に言った。
「日に三荷の柴ならば、午《ひる》までに二荷苅るがいい。柴はこうして苅るものじゃ」樵は我が荷をおろして置いて、すぐに一荷苅ってくれた。
 厨子王は気を取り直して、ようよう午までに一荷苅り、午からまた一荷苅った。
 浜辺に往く姉の安寿は、川の岸を北へ行った。さて潮を汲む場所に降り立ったが、これも汐の汲みようを知らない。心で心を励まして、ようよう杓《ひさご》をおろすや否や、波が杓を取って行った。
 隣で汲んでいる女子《おなご》が、手早く杓を拾って戻した。そしてこう言った。「汐はそれでは汲まれません。どれ汲みようを教えて上げよう。右手《めて》の杓でこう汲んで、左手《ゆんで》の桶《おけ》でこう受ける」とうとう一荷汲んでくれた。
「ありがとうございます。汲みようが、あなたのお蔭で、わかったようでございます。自分で少し汲んでみましょう」安寿は汐を汲み覚えた。
 隣で汲んでいる女子に、無邪気な安寿が気に入った。二人は午餉《ひるげ》を食べながら、身の上を打ち明けて、姉妹《きょうだい》の誓いをした。これは伊勢の小萩《こはぎ》といって、二見が浦から買われて来た女子である。
 最初の日はこんな工合に、姉が言いつけられた三荷の潮も、弟が言いつけられた三荷の柴も、一荷ずつの勧進を受けて、日の暮れまでに首尾よく調《ととの》った。

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 姉は潮を汲み、弟は柴を苅って、一日一日《ひとひひとひ》と暮らして行った。姉は浜で弟を思い、弟は山で姉を思い、日の暮れを待って小屋に帰れば、二人は手を取り合って、筑紫にいる父が恋しい、佐渡にいる母が恋しいと、言っては泣き、泣いては言う。
 とかくするうちに十日立った。そして新参小屋を明けなくてはならぬときが来た。小屋を明ければ、奴《やっこ》は奴、婢《はしため》は婢の組に入るのである。
 二人は死んでも別れぬと言った。奴頭が大夫に訴えた。
 大夫は言った。「たわけた話じゃ。奴は奴の組へ引きずって往け。婢は婢の組へ引きずって往け」
 奴頭が承って
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