申し出るやうにと云ふことでございました。丁度生れたのが男の子でございましたので申し出ました。すると五歳になつたら連れて參るやうにと申す事でございました。それから五歳になりましたので連れて出ました。其子は別間に呼ばれました。そしてお前は侍になりたいか、町人になりたいかと云ふお尋がございました。子供はなんの氣なしに町人になりたうございますと申しました。それで別に御用は無いと云ふことになつて下げられたさうでございます。なんでも眞志屋と云ふ屋號は其後始て附けたもので、大名よりは増屋だと云ふ意《こゝろ》であつたとか申すことでございます。その水戸樣のお胤《たね》の人は若くて亡くなりましたが、血筋は壽阿彌さんまで續いてゐるのだと、承りました。」
 此《この》言《こと》に從へば、眞志屋は數世續いた家で、落胤問題と屋號の縁起とは其祖先の世に歸著する。
 次にわたくしは藤井紋太夫の墓が何故に眞志屋の墓地にあるかを問うた。
 石は答へた。「あれは別に深い仔細のある事ではないさうでございます。藤井紋太夫は水戸樣のお手討ちになりました。所が親戚のものは憚《はゞかり》があつて葬式をいたすことが出來ませんでした。其
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