け、又浮き上がって汐を吐いた。端艇は次第に遠くなった。フランス水兵の死者は総数十三人で、内一人が下士であった。
 そこへ杉が駆け付けた。そして射撃を止めて陣所へ帰れと命じた。両隊が陣所へ引き上げていると、隊長二人を軍監府から呼びに来た。なぜ上司の命令を待たずに射撃したかと杉に問われて、両隊長は火急の場合で命令を待つことが出来なかったと弁明した。勿論《もちろん》端艇から先ず射撃したので、これに応戦したのではあるが、土佐の士卒は初からフランス人に対して悪感情を懐《いだ》いていた。それは土佐人が松山藩を討つために錦旗を賜わって、それを本国へ護送する途中、神戸でフランス人がその一行を遮《さえぎ》り留め、朝廷と幕府との和親を謀《はか》るためだと通弁に云わせ、錦旗を奪おうとしたと云う話が伝わっていたからである。
 杉は両隊長に言った。とにかくこうなった上は是非がない。軍艦の襲撃があるかも知れぬから、防戦の準備をせいと云った。そして報告のために生駒を外国事務係へ、下横目一人を京都の藩邸へ発足《ほっそく》させた。
 両隊長は僅《わず》か二小隊の兵を以て軍艦を防げと云われて当惑したが、海岸へは斥候《せっ
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