。脚《あし》の長い、駆歩《かけあし》に慣れたフランス人にはなかなか及ばない。水兵はもう端艇に乗り移ろうとする。この頃土佐の歩兵隊には鳶《とび》の者が附いていて、市中の廻番をするにも、それを四五人ずつ連れて行くことにしてあった。隊旗を持つのもこの鳶の者の役で、その中に旗持梅吉と云う鳶頭がいた。江戸で火事があって出掛けるのに、早足の馬の跡を一間とは後《おく》れぬという駆歩の達者である。この梅吉が隊の士卒を駆け抜けて、隊旗を奪って行く水兵に追い縋《すが》った。手に持った鳶口は風を切ってかの水兵の脳天に打ち卸《おろ》された。水兵は一声叫んで仰向に倒れた。梅吉は隊旗を取り返した。
これを見て端艇に待っていた水兵が、突然短銃で一斉射撃をした。
両隊長が咄嗟《とっさ》の間に決心して「撃て」と号令した。待ち兼ねていた兵卒は七十余|挺《ちょう》の銃口を並べ、上陸兵を収容している端艇を目当に発射した。六人ばかりの水兵はばらばらと倒れた。負傷して水に落ちたものもある。負傷せぬものも急に水中に飛び込んで、皆片手を端艇の舷《ふなばた》に掛けて足で波を蹴《けっ》て端艇を操りながら、弾丸《たま》が来れば沈んで避
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