又は実子のあるものは、その実父、実子も巳の刻半に出頭すべしと云うのである。南会所では目附の出座があって、下横目が三箇条の達しをした。扶持切米《ふちきりまい》召し放され、渡川限《わたりかわかぎり》西へ流罪《るざい》仰せ付けられる。袴刀《はかまかたな》のままにて罷《まか》り越して好いと云うのが一つ。実子あるものは実子を兵卒に召し抱え、二人扶持切米四石を下し置かれると云うのが二つ。実子のないものは配処に於いて介補《かいほ》として二人扶持を下し置かれ、幡多《はた》中村の蔵から渡し遣《つか》わされると云うのが三つである。九人のものは相談の上、橋詰を以て申し立てた。我々はフランス人の要求によって、国家の為めに死のうとしたものである。それゆえ切腹を許され、士分《さむらいぶん》の取扱を受けた。次いでフランス人が助命を申し出たので、死を宥《なだ》められた。然れば無罪にして士分の取扱をも受くべき筈である。それを何故に流刑に処せられるか、その理由を承らぬうちは、輒《たやす》くお請《うけ》が出来難いと云うのである。目附は当惑の体で云った。不審は最《もっとも》である。しかしこの度の流刑は自殺した十一人の苦痛に準
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