駕籠一挺毎に、装剣の銃を持った六人の兵が附く。二十挺の前後は、同じく装剣の銃を持った兵が百二十人で囲んでいる。後押《あとおさえ》は銃を負った騎兵二騎である。次に両藩の高張提灯《たかはりぢょうちん》各十挺が行く。次に両藩士卒百数十人が行く。以上の行列の背後に少し距離を取って、土佐藩の重臣始め数百人が続く。長径|凡《およ》そ五丁である。
長堀を出発して暫く進んでから、山川亀太郎が駕籠に就いて一人々々に挨拶して、箕浦の駕籠に戻ってからこう云った。
「狭い駕籠で、定めて窮屈でありましょう。その上長途の事ゆえ、簾《すだれ》を垂れたままでは、鬱陶《うっとう》しく思われるでありましょう。簾を捲かせましょうか」と云った。
「御厚意|忝《かたじけの》う存じます。差構《さしかまい》ない事なら、さよう願いましょう」と、箕浦が答えた。
そこで駕籠の簾は総て捲き上げられた。
又暫く進むと、山川が一人々々の駕籠に就いて、
「茶菓の用意をしていますから、お望の方に差し上げたい」と云った。
両藩の二十人に対する取扱は、万事非常に鄭重《ていちょう》なものである。
住吉|新慶町《しんけいまち》辺に来ると、兼《か
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