起った。
 又良暫くしてから、今度は下横目が出て云った。
「出格の御詮議を以て、一同士分のお取扱いを仰せ付けられる。依って絹服《けんぷく》一重《ひとかさね》ずつ下し置かれる」
 こう言って目録を渡した。
 一同目録を受け取って下がりしなに、隊長、小頭の所に今夜の首尾を届けに立ち寄った。隊長等も警固隊の士官に馳走せられて快よく酔って寐ていたが、配下の者共が打ち揃《そろ》って来たので、すぐに起きて面会した。十六人は隊長、小頭と引き分けられてから、今夜まで一度も逢う機会がなかったが、大目付との対談の甲斐があって、切腹を許され、士分に取り立てられ、今は誰も行住動作に喙《くちばし》を容れるものがないので、公然立ち寄ることが出来たのである。
 隊長、小頭は配下一同の話を聞いて、喜びかつ悲んだ。悲んだのは、四人が自分達の死を覚悟していながら、二十人の死をフランス公使に要求せられたと云うことを聞《きか》せられずにいたので、十六人の運命を始めて知って悲んだのである。喜んだのは、十六人が切腹を許され、士分に取り立てられたのを喜んだのである。隊長、小頭の四人と配下の十六人とは、まだ夜の明けるに間があるから、
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