る次第である。即ち明日堺表に於て切腹仰せ付けられる。いずれも皇国のためを存じ、難有くお受いたせ。又歴々のお役人、外国公使も臨場せられる事であるから、皇国の士気を顕《あらわ》すよう覚悟いたせ」
 小南は沙汰書を取り出して見ながら、こう演説した。太守様と云ったのは、当主土佐守豊範を斥《さ》したのである。
 十六人は互に顔を見合せて、微笑を禁じ得なかった。竹内は一同に代って答えた。
「恩命難有くお受いたします。それに就いて今一箇条お願申し上げたい事がございます。これは手順を以て下横目へ申し立つべき筋ではございますが、御重役御出席中の事ゆえ、今生《こんじょう》の思出にお直《じき》に申し上げます。只今の御沙汰によれば、お上に置かせられても、我々の微衷《びちゅう》をお酌取《くみとり》下されたものと存じます。然らば我々一同には今後士分のお取扱いがあるよう、遺言同様の儀なれば、是非共お聞済下さるようにお願いいたします」
 小南は暫く考えて云った。
「切腹を仰せ付けられたからは、一応|尤《もっと》もな申分のように存ずる。詮議《せんぎ》の上で沙汰いたすから、暫時《ざんじ》控えておれ」
 こう云って再び座を
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