である。
六
竜池の水引を掛けた祝儀は壮観ではあっても、費す所は甚だ多きに至らなかった。これに反して子之助は、人に※[#「嚊のつくり−自」、第4水準2−81−24]《あた》うる物に種々の趣向を凝らし、その値の高下を問わなかった。丸利、丸上、山田屋等の袋物店に払う紙入、煙草入の代は莫大《ばくだい》であった。既にして更衣《ころもがえ》の節となった。子之助は単《ひとえ》羽織と袷《あわせ》とを遊所に持て来させて著更え、脱ぎ棄てた古渡唐桟《こわたりとうざん》の袷羽織、糸織の綿入、琉球紬《りゅうきゅうつむぎ》の下著、縮緬《ちりめん》の胴著等を籤引《くじびき》で幇間芸妓に与えた。
竜池は子之助の遊蕩がいよいよ募って、三村氏が放任して顧みぬことを聞き知り、自ら手を下してこれを制せようとした。六月中旬の事である。子之助が品川の湊屋にいると、竜池は四手《よつで》を飛ばして大野屋に来た。そして子之助に急用があるから来いと言って遣った。
子之助は父を畏《おそ》れて、湊屋の下座敷から庭に飛び下り、海岸の浅瀬を渉《わた》って逃げようとしたが、使のものに見附けられて捉《とら》えられた。
竜
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