祭日
ライネル・マリア・リルケ(Rainer Maria Rilke)
森林太郎訳

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)贄卓《したく》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)なる丈沢山|饒舌《しやべ》つて、

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)恭《うや/\》しく
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

 ミサを読んでしまつて、マリア・シユネエの司祭は贄卓《したく》の階段を四段降りて、くるりと向き直つて、レクトリウムの背後《うしろ》に蹲《うづくま》つた。それから祭服の複雑な襞の間を捜して、大きいハンカチイフを取り出して、恭《うや/\》しく鼻をかんだ。オルガン音階のC音を出したのである。そして唱へ始めた。「主《しゆ》に於いて眠り給へる帝室評議員アントン・フオン・ヰツク殿の為めに祈祷せしめ給へ。主よ。御身の敬虔なる奴僕《ぬぼく》アントニウスに慈愛を垂れ給へ。」
 ベンチの第一列に腰を掛けてゐたのが、此時立ち上がつて、さも感動したらしく鼻をかんでゐる男がある。八年前に亡くなつた「敬虔なる奴僕」の弟で
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