いた。
スタニスラウスは二三度肩を聳かして、そして心配らしい、物を聞き定めるやうな顔をした。
一同はイレエネ・ホルンの家の戸口に着いた。その時スタニスラウスは家族が皆見てゐる前で、さつきの肩の運動を繰り返してゐる。
イレエネがその様子を見て、じれつたさうに、「をぢさん、どうなすつたの」と云つた。
スタニスラウスは先づ心配げな顔に、堪忍《かんにん》の表情を蓄へられる丈蓄へて、矢張さつきの肩の運動を繰り返して、溜息を衝いて云つた。「なんだか体がぎごちなくなつたやうだ。礼拝堂で風を引いたのかしらん。」
イレエネは只頷いた。
イレエネの妹のフリイデリイケが、さも物をこらへてゐると云ふ口吻で囁いだ。「わたくしもそんな気がいたしますの。」
こんな事を言ひ合つて、門口を這入つて行く。その時フランス女の家庭教師がイレエネの息子の、七歳になつて、色の蒼いのを連れて、そこへ近寄つて来た。自分も色の蒼いフリイデリイケは、少年の額を撫で上げて遣りながら、腹の内で「この子がこんなに蒼い顔をしてゐるのは、きつと風を引いたのだらう」と思つた。
暗い梯子段を上がる時、フリイデリイケはイレエネに囁いだ。
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