になりますので、それに就いてお願がございます。」
「なんだ。あしたおしおきになる。それぢやあ、お前は桂屋太郎兵衞の子か。」
「はい」といちが答へた。
「ふん」と云つて、男は少し考へた。そして云つた。「怪しからん。子供までが上を恐れんと見える。お奉行樣はお前達にお逢《あひ》はない。歸れ歸れ。」かう云つて、窓を締めてしまつた。
まつが※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、254−上−22]《あね》に言つた。「ねえさん、あんなに叱るから歸りませう。」
いちは云つた。「默つてお出。叱られたつて歸るのぢやありません。ねえさんのする通りにしてお出。」かう云つて、いちは門の前にしやがんだ。まつと長太郎とは附いてしやがんだ。
三人の子供は門のあくのを大ぶ久しく待つた。やう/\貫木《くわんのき》をはづす音がして、門があいた。あけたのは、先に窓から顏を出した男である。
いちが先に立つて門内に進み入ると、まつと長太郎とが背後《うしろ》に續いた。
いちの態度が餘り平氣なので、門番の男は急に支へ留めようともせずにゐた。そして暫く三人の子供の玄關の方へ進むのを、目を※[#「
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