3水準1−85−57]のつくり」、256−下−16]や兄が順序に呼ばれたので、こんどは自分が呼ばれたのだと氣が附いた。そして只目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]つて役人の顏を仰ぎ見た。
「お前も死んでも好いのか。」
 とくは默つて顏を見てゐるうちに、唇に血色が亡くなつて、目に涙が一ぱい溜まつて來た。
「初五郎」と取調役が呼んだ。
 やう/\六歳になる末子の初五郎は、これも默つて役人の顏を見たが、「お前はどうぢや、死ぬるのか」と問はれて、活溌にかぶりを振つた。書院の人々は覺えず、それを見て微笑んだ。
 此時佐佐が書院の敷居際まで進み出て、「いち」と呼んだ。
「はい。」
「お前の申立には※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]はあるまいな。若し少しでも申した事に間違があつて、人に教へられたり、相談をしたりしたのなら、今すぐに申せ。隱して申さぬと、そこに並べてある道具で、誠の事を申すまで責めさせるぞ。」佐佐は責道具のある方角を指さした。
 いちは指された方角を一目見て、少しもたゆたはずに、「いえ、申した事に間違はございません」と言ひ放つた。其目は冷かで、其詞は徐かであつ
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