した。
 與力は同役の人達を顧みて、「では兎に角書附を預かつて置いて、伺つて見ることにしませうかな」と云つた。それには誰も異議がなかつた。
 與力は願書をいちの手から受け取つて、玄關にはいつた。

     ――――――――――――――――

 西町奉行の佐佐は、兩奉行の中の新參で、大阪に來てから、まだ一年立つてゐない。役向《やくむき》の事は總て同役の稻垣に相談して、城代《じやうだい》に伺つて處置するのであつた。それであるから、桂屋太郎兵衞の公事《くじ》に就いて、前役の申繼を受けてから、それを重要事件として氣に掛けてゐて、やうやう處刑の手續が濟んだのを重荷を卸したやうに思つてゐた。
 そこへ今朝になつて、宿直の與力が出て、命乞《いのちごひ》の願に出たものがあると云つたので、佐佐は先づ切角運ばせた事に邪魔がはいつたやうに感じた。
「參つたのはどんなものか。」佐佐の聲は不機嫌であつた。
「太郎兵衞の娘兩人と倅とがまゐりまして、年上の娘が願書を差上げたいと申しますので、これに預つてをります。御覽になりませうか。」
「それは目安箱《めやすばこ》をもお設になつてをる御趣意から、次第によつては受け
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