った。
「太郎兵衛の娘両人と伜《せがれ》とがまいりまして、年上の娘が願書《がんしょ》をさし上げたいと申しますので、これに預かっております。御覧になりましょうか。」
「それは目安箱《めやすばこ》をもお設けになっておる御趣意から、次第によっては受け取ってもよろしいが、一応はそれぞれ手続きのあることを申し聞かせんではなるまい。とにかく預かっておるなら、内見しよう。」
 与力は願書を佐佐の前に出した。それをひらいて見て佐佐は不審らしい顔をした。「いちというのがその年上の娘であろうが、何歳になる。」
「取り調べはいたしませんが、十四五歳ぐらいに見受けまする。」
「そうか。」佐佐はしばらく書付《かきつけ》を見ていた。ふつつかなかな文字で書いてはあるが、条理がよく整っていて、おとなでもこれだけの短文に、これだけの事がらを書くのは、容易であるまいと思われるほどである。おとなが書かせたのではあるまいかという念が、ふときざした。続いて、上《かみ》を偽る横着物《おうちゃくもの》の所為ではないかと思議した。それから一応の処置を考えた。太郎兵衛は明日《みょうにち》の夕方までさらすことになっている。刑を執行するま
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