立ち寄られたいと云つた。内藏允は答へて、主人右衞門佐は火急の御召によつて、既に小勢を以て夜中に入府いたされたと云つた。
間もなく老中の使者が櫻田邸へ來た。忠之を澁谷長谷寺に入れようと云ふのである。忠之はいかなる御不審かは知らぬが、邸内に於いて兎も角も相成りたいと答へた。使者は其儘《そのまゝ》引き取つた。續いて尾張家附成瀬|隼人正正虎《はやとのしやうまさとら》、紀伊家附安藤|帶刀《たてはき》直次並に瀧口豐後守が來て面會を求めた。此三人は平生《へいぜい》忠之と懇意な間柄なので、忠之を説き動かして、とう/\長谷寺に遷《うつ》らせた。
上邸から早打《はやうち》が福岡へ立つた。それが著くと、福岡城では留守の家老、物頭《ものがしら》、諸侍が集まつて評議をした。評議が濟むと、組頭はそれ/″\部下に云ひ渡した。諸侍の中で城を渡して退去したいものは勝手に退去するが好い。又城を枕《まくら》に討死したいものは用意をせいと云ふのである。然るに諸侍は一人も退去しようとは云わぬ。そこで妻子をも城内に入れて、一戰の上一同討死すると云ふことになつた。防戰の持場は赤間口、畝《うねび》町、金出口、金出宿、宰府口、比惠の原、岩戸口、三瀬越、唐津口、生松原、船手と城内とに分けられた。赤間口には井上内記、黒田兵庫、黒田市兵衞、小河|縫殿助《ぬひのすけ》、小河織部、久野四兵衞、小河專太夫、畝町には井上|監物《けんもつ》、吉田|壹岐《いき》、伊丹|藏人《くらんど》、高橋忠左衞門、小河長五郎、金出口には野村右京、加藤|圖書《づしよ》、村田出羽、毛利又右衞門、久野|外記《げき》、喜多村|緑之丞《ろくのじやう》、加藤彌三之丞、金出宿には黒田監物、黒田平吉、林|掃部《かもん》、村山角右衞門、野口左助、喜多村|勘解由《かげゆ》、宰府口には毛利左近、月瀬|右馬允《うめのじよう》、衣笠因幡《きぬがさいなば》、大音六左衞門、菅勘兵衞、吉田右馬太夫、長濱九郎右衞門、比惠の原には野村市右衞門、明石四郎兵衞、黒田總兵衞、齋藤甚右衞門、野村初右衞門、岩戸口には佐谷五郎太夫、松本|能登《のと》、三瀬越には大塚權兵衞、小林|内匠《たくみ》、竹中主膳、浦上三郎兵衞、菅彌一右衞門、黒田半右衞門、岡田左衞門、郡右衞門、蒔田《まきた》源右衞門、大音安太夫、唐津口には郡正太夫、齋藤忠兵衞、吉田久太夫、毛利吉右衞門、生松原には郡金右衞門、松下源助
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