うのとほりこころう》べし」と、九郎右衛門、りよ、文吉の三人に達せられた。九郎右衛門、りよは天保五年二月に貰った御判物《ごはんもの》を大目附に納めた。
閏《うるう》七月|朔日《ついたち》にりよに酒井家の御用召があった。辰《たつ》の下刻に親戚山本平作、桜井須磨右衛門が麻上下《あさがみしも》で附き添って、御用部屋に出た。家老河合小太郎に大目附が陪席して申渡《もうしわたし》をした。
「女性《にょしょう》なれば別して御賞美あり、三右衛門の家名相続|被仰附《おほせつけらる》、宛行《あておこなひ》十四人|扶持被下置《ふちくだしおかる》、追て相応の者|婿養子可被仰附《むこようしおほせつけらるべし》、又近日|中奥御目見可被仰附《なかおくおめみえおほせつけらるべし》」と云うのである。
十一日にりよは中奥目見《なかおくめみえ》に出て、「御紋附|黒縮緬《くろちりめん》、紅裏真綿添《もみうらまわたそひ》、白羽二重一重《しろはぶたへひとかさね》」と菓子一折とを賜《たまわ》った。同じ日に浜町の後室から「縞《しま》縮緬一反」、故酒井|忠質室専寿院《ただたかしつせんじゅいん》から「高砂《たかさご》染縮緬|帛《ふくさ
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