何か手掛りがありそうに思われるので、特別捜索をするのである。松坂では殿町に目代《もくだい》岩橋某と云うものがいて、九郎右衛門等の言うことを親切に聞き取って、綿密な調べをしてくれた。その調べ上げた事実を言って聞せられた時は、一行は暗中に燈火《ともしび》を認めたような気がしたのである。
 松坂に深野屋佐兵衛と云う大商人《おおしょうにん》がある。そこへは紀伊国熊野浦《きいのくにくまのうら》長島外町の漁師|定右衛門《さだえもん》と云うものが毎日|魚《うお》を送ってよこす。その縁で佐兵衛は定右衛門一|家《け》と心安くなっている。然るに定右衛門の長男亀蔵は若い時江戸へ出て、音信《いんしん》不通になったので、二男定助一人をたよりにしている。その亀蔵が今年正月二十一日に、襤褸《ぼろ》を身に纏《まと》って深野屋へ尋ねて来た。佐兵衛は「お前のような不孝者を、親父様《おやじさま》に知らせずに留めて置く事は出来ぬ」と云った。亀蔵はすごすご深野屋の店を立ち去ったが、それを見たものが、「あれは紀州の亀蔵と云う男で、なんでも江戸で悪い事をして、逃げて来たのだろう」と評判した。
 後に深野屋へ聞えた所に依ると、亀蔵は
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