裁縫するのを見ていたが、不審らしい顔をして、烟管《きせる》を下に置いた。「なんだい。そんなちっぽけな物を拵《こしら》えたって、しようがないじゃないか。若殿はのっぽでお出《いで》になるからなあ」
りよは顔を赤くした。「あの、これはわたくしので」縫っているのは女の脚絆甲掛《きゃはんこうがけ》である。
「なんだと」叔父は目を大きく※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った。「お前も武者修業に出るのかい」
「はい」と云ったが、りよは縫物の手を停《と》めない。
「ふん」と云って、叔父は良《やや》久《ひさ》しく女姪《めい》の顔を見ていた。そしてこう云った。「そいつは駄目だ。お前のような可哀らしい女の子を連れて、どこまで往くか分からん旅が出来るものか。敵《かたき》にはどこで出逢うか、何年立って出逢うか、まるで当《あて》がないのだ。己《おれ》と宇平とは只それを捜しに行くのだ。見附かってからお前に知らせれば好《い》いじゃないか」
「仰《おっし》ゃる通《とおり》、どこでお逢になるか知れませんのに、きっと江戸へお知らせになることが出来ましょうか。それに江戸から参るのを、きっとお待になることが出
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