一人で凌《しの》いだのである。傍《そば》には骨の太い、がっしりした行燈《あんどう》がある。燈心に花が咲いて薄暗くなった、橙黄色《だいだいいろ》の火が、黎明《しののめ》の窓の明りと、等分に部屋を領している。夜具はもう夜具|葛籠《つづら》にしまってある。
 障子の外に人のけはいがした。「申し。お宅から急用のお手紙が参りました」
「お前は誰《たれ》だい」
「お表の小使でございます」
 三右衛門は内から障子をあけた。手紙を持って来たのは、名は知らぬが、見識《みし》った顔の小使で、二十《はたち》になるかならぬの若者である。
 受け取った封書を持って、行燈の前にすわった三右衛門は、先《ま》ず燈心の花を落して掻《か》き立てた。そして懐《ふところ》から鼻紙袋を出して、その中の眼鏡《めがね》を取って懸《か》けた。さて上書を改めたが、伜《せがれ》宇平の手でもなければ、女房《にょうぼう》の手でもない。ちょいと首を傾けたが、宛名には相違がないので、とにかく封を切った。手紙を引き出して披《ひら》き掛けて、三右衛門は驚いた。中は白紙である。
 はっと思ったとたんに、頭を強く打たれた。又驚く間もなく、白紙の上に血が
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