レオニイド・アンドレイエフ Leonid Andrejew
森鴎外訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)困《くるし》められて

[#]:入力者注 主に外字の説明
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]
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 この犬は名を附けて人に呼ばれたことはない。永い冬の間、何処にどうして居るか、何を食べて居るか、誰も知らぬ。暖かそうな小屋に近づけば、其処に飼われて居る犬が、これも同じように饑渇に困《くるし》められては居ながら、その家の飼犬だというので高慢らしく追い払う。饑渇に迫られ、犬仲間との交を恋しく思って、時々町に出ると、子供達が石を投げつける。大人も口笛を吹いたり何かして、外の犬を嗾《けしか》ける。そこでこわごわあちこち歩いた末に、往来の人に打突《ぶつか》ったり、垣などに打突ったりして、遂には村はずれまで行って、何処かの空地に逃げ込むより外はない。人の目にかからぬ木立の間を索めて身に受けた創《きず》を調べ、この寂しい処で、人を怖れる心と、人を憎
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