サを山のように盛ってある。男も女も、線香に火を附けたのを持って来て、それを砂に立てて置いて帰る。
中一日置いて三十一日には、又商人が債《かけ》を取りに来る。石田が先月の通に勘定をしてみると、米がやっぱり六月と同じように多くいっている。今月は風炉敷包を持ち出す婆あさんはいなかったのである。石田は暫く考えてみたが、どうも春はお時婆あさんのような事をしそうにはない。そこで春を呼んで、米が少し余計にいるようだがどう思うと問うて見た。
春はくりくりした目で主人を見て笑っている。彼は米の多くいるのは当前だと思うのである。彼は多くいるわけを知っているのである。しかしそのわけを言って好《い》いかどうかと思って、暫く考えている。
石田は春に面白い事を聞いた。それは別当の虎吉が、自分の米を主人の米櫃《こめびつ》に一しょに入れて置くという事実である。虎吉の給料には食料が這入っている。馬糧なんぞは余り馬を使わない司令部勤務をしているのに、定則だけの金を馬糧屋に払っているのだから虎吉が随分利益を見ているということを、石田は知っている。しかし馬さえ痩《や》せさせなければ好いと思って、あなぐろうとはしない。そ
前へ
次へ
全43ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング